ホーム皮膚紋理学とは
学びの背景 ①

皮膚紋理学って、
どんな学問なんだろう?

指先や手のひらの紋様を研究する学問分野「皮膚紋理学(ひふもんりがく)」。その正体、100年あまりの研究の歩み、紋様が作られる仕組みまで、肩の力を抜いてやさしくご紹介します。

子どもとおだやかに過ごす親子の時間

「皮膚紋理学」と聞くと、むずかしそうに感じるかもしれません。でも、もとをたどればとてもシンプルです。皮膚紋理学(ひふもんりがく)は、指先・手のひら・足の裏にある細かな紋様を観察し、型に分け、人と人とで比べる学問分野のこと。英語では dermatoglyphics(ダーマトグリフィクス)と呼ばれ、解剖学・人類学・医学・法科学のなかで、100年あまり研究されてきました。紋様は、赤ちゃんがお母さんのおなかにいるあいだに作られ、その後はほとんど変わりません。このページでは、この分野が何を調べてきたのか、紋様はどのように作られ、どんな型があるのかを、順にご紹介します。

このページで、お伝えしたいこと

皮膚紋理学は、お子さんの個性の“傾向”を見つめ直すための、ひとつの視点・ヒントです。そのことを大切にしながら、読み進めていただけたら嬉しいです。

皮膚紋理学は、何を研究する学問なの?

明るいところで、自分の指先をじっと見てみてください。細い線が何本も並んで、流れたり、うずを巻いたりしているのが見えると思います。この一本いっぽんの線を「皮膚隆線(ひふりゅうせん)」——かんたんに言えば「皮膚のうね」——と呼びます。皮膚紋理学が観察しているのは、このうねの並び方です。

名前の由来は、ギリシャ語の derma(皮膚)と glyphe(彫る)。つまり「皮膚に彫られた模様」という意味です。この呼び名をつくったのは、アメリカ・チューレーン大学の解剖学者ハロルド・カミンズで、1926年のことでした。(注1)

対象は指紋だけではありません。手のひら、そして足の裏。物をにぎったり、地面に立ったりするときに触れる面には、どこにもこのうねがあり、そのすべてが研究の対象です。「手相を見る」のとは別の話で、手のひらの“しわ”ではなく“うねの並び”を見る、というのがこの分野の出発点です。

いつごろから、どんな分野で研究されてきたの?

紋様そのものへの関心は古いのですが、学問として整理されたのは19世紀からです。おおまかに、3つの節目があります。

1823年、チェコの生理学者ヤン・プルキンエが、指先の紋様を9つの型に分ける最初の分類を発表しました。1892年には、イギリスのフランシス・ゴルトンが『Finger Prints』を著し、たくさんの採取データをもとに「紋様は一人ひとり違う」「生涯を通してほとんど変わらない」ことを示します。そして1926年、先ほどのカミンズが「皮膚紋理学(dermatoglyphics)」という名前を与え、ひとつの分野として形が整いました。(注1・注2)

扱ってきた分野は、ひとつではありません。体のつくりとして見る解剖学、集団によって型の出方が違うことを調べる人類学、生まれつきの染色体の状態と紋様の傾向との関連を調べる医学遺伝学、そして一人ひとり違うことを本人確認に使う法科学。「指紋といえば犯罪捜査」というイメージが強いのは、このうち法科学での応用が、社会のしくみとして広く使われているからです。(注1・注3)

指紋は、いつ・どんなふうに作られるの?

指先の紋様は、お母さんのおなかの中で作られます。流れを追ってみましょう。

妊娠10週ごろ、赤ちゃんの指先には、いまよりずっとぷっくりしたふくらみ(英語で volar pad と呼ばれます)があります。13週ごろ、そのふくらみの上に、うねのもとになる線(一次隆線)ができはじめます。16週ごろには、うねの底に汗をかくための小さな穴が育ちます。そして20週前後には、紋様の形はもうほとんど決まってしまいます。生まれてくるずっと前の話です。(注3・注4)

2023年に科学誌『Cell』に載った研究は、その「形の決まり方」をかなり細かく描き出しました。うねは指先の3か所——ふくらみのてっぺん、爪のきわ、第一関節のしわ——から同時に広がりはじめ、水面の波紋のようにぶつかり合います。どこで、どんな角度で出会うか。それによって、弓のような形になるか、うずを巻くかが決まる。つまり紋様は、あらかじめ設計図に描かれていたというより、指先という限られた場所で線が広がった“結果”として決まるものなのです。(注4)

だから、一卵性の双子でも、指紋は同じになりません。遺伝の影響もありますが、おなかの中での指のかたち、ふくらみの高さ、その時期の育ち方といった条件が重なって、最後の形が決まるからです。同じ設計図を持っていても、同じ模様にはならない。ここは、この分野のなかでも特におもしろいところだと思います。(注3・注4)

では、どうして一生変わらないのでしょうか。紋様が、表面の皮ではなく皮膚のもっと深いところに刻まれているからです。古い皮がはがれ落ちても、新しく作られる皮膚は同じうねの並びの上に積み上がっていきます。すりむいた指の指紋が、しばらくすると元どおりになるのはこのため。ただし、傷が深いところまで届いた場合は、そこは傷あととして残ります。(注5)

生まれ持った個性に、やさしく寄りそう親子の時間

紋様には、どんな型があるの?

数えきれないほど個性的に見える紋様も、大きく分けると3つの型になります。見分けるときの目印になるのが「三叉(さんさ)」。3つの方向から来たうねがぶつかって、Y字のように分かれる点のことです。この三叉がいくつあるかで、型が決まります。(注1)

三叉 0個

弓状紋(きゅうじょうもん)

うねが片側から入り、山なりに盛り上がって、反対側へ抜けていく型。英語では arch。3つの型のなかではいちばん少なく、全体の5%ほどとされています。

三叉 1個

蹄状紋(ていじょうもん)

馬のひづめの跡に似た形。入ってきたうねが折り返して、同じ側へ戻っていく型です。英語では loop。もっとも多く、およそ6割を占めるとされています。

三叉 2個

渦状紋(かじょうもん)

中心でうずを巻く型。英語では whorl。およそ3割5分とされています。うずの巻き方にも、いくつかの細かい種類があります。

見分け方

三叉(さんさ)

3方向のうねが出会ってY字に分かれる点。0個なら弓状紋、1個なら蹄状紋、2個なら渦状紋。三叉から中心までにうねが何本あるかを数える方法もあります。

ここに挙げた「5%・6割・3割5分」は、米フロリダ国際大学の法科学センターが公開している一般向け教材にある数字です(注5)。ただし、どの型が多いかは、調べる集団によって変わります。地域や集団によって型の出方に偏りがあること自体が、人類学で長く研究されてきたテーマでもあるのです。(注1)

研究で、分かってきたこと

100年あまりの研究で、どんなことが確かめられてきたのか。ここまでにご紹介した内容を、いちど整理しておきます。

分かっていること

研究で積み上がってきたこと

・紋様が、おなかの中のいつ・どんな仕組みで作られるのか。(注3・注4)
・一人ひとり違い、生涯ほとんど変わらないこと。だから本人確認に使えること。(注2・注5)
・集団によって、型の出方に偏りがあること。(注1)

FPP指紋鑑定®がお渡ししているのは、紋様のパターンを整理して、お子さんの「傾向」を考えるきっかけにしていただくためのものです。

脳のはたらきも、ちょっとだけのぞいてみましょう

ここから先は、指紋の話ではなく脳そのものについての一般的な知識です。背景知識として、少しだけのぞいてみましょう。

わたしたちの脳は、たくさんの神経細胞がつながり合って、考えたり、感じたり、覚えたりしています。脳にはいくつかの“はたらきのまとまり”があり、それぞれが得意な役割をゆるやかに担っていると言われています。あくまで一般的な学びとして、代表的な4つのエリアをのぞいてみましょう。

脳のイラスト(一般的な構造のイメージ) ※ 脳の一般的なはたらきのイメージです
前のほう

前頭葉(ぜんとうよう)

脳のいちばん前にあり、計画を立てる・考えをまとめる・気持ちを整えるといった役割に関わると言われています。

横のほう

側頭葉(そくとうよう)

耳の近くにあり、音や言葉を受け取ること、記憶をためておくことなどに関わると言われています。

後ろのほう

後頭葉(こうとうよう)

頭の後ろにあり、見たもの——色・形・動きなどを受け取るはたらきに関わると言われています。

上のほう

頭頂葉(とうちょうよう)

頭の上のあたりにあり、触れた感覚や、空間・身体の位置をとらえることに関わると言われています。

これらは「脳ってこんなふうにできているんだな」という一般的な知識です。あくまで、自分や子どもの個性を考えるときの、やさしい背景知識として知っておいていただけたらと思います。

「学びの理論」と、どうつながるの?

FPP指紋鑑定®は、米ハーバード大学のハワード・ガードナー博士が提唱した「多重知能理論(たじゅうちのうりろん)」という“学びの考え方”を背景にしています。これは「人の得意は、ひとつのものさしでは測れない。いろいろな種類の知能がある」という考え方です。皮膚紋理学という視点と、この多重知能理論の考え方を重ねながら、お子さんの個性の“傾向”を、やさしく言葉にしていきます。

皮膚紋理学と多重知能理論を組み合わせた評価指標については、査読のある学術誌でも研究の発表が始まっています。たとえば2025年8月の『韓国知能システム学会論文誌』には、この指標と生活満足度との関連を調べた論文が掲載されました(注6)。ただし、これは「関連が報告された」という段階の話です。

大切な前提

多重知能理論は、ガードナー博士が示した“学びの理論・考え方”です。FPP指紋鑑定®は、この理論や皮膚紋理学を背景・ヒントにしているものです。生まれ持った個性の“傾向”を、あらためて見つめ直すきっかけとしてお渡ししています。

子どもの“好き”や得意を、あたたかく見守るまなざし

ちいさな豆知識コーナー

気になるところだけ、そっと開いてみてください。脳と紋様にまつわる、やさしい雑学です。

脳の神経細胞って、どれくらいあるの?+
よく「約1000億個」と言われますが、これは古くからの見積もりです。2009年に実際に数えた研究では、おとなの脳でおよそ860億個と報告されています(注7)。いずれにせよ想像のつかない数で、それぞれがネットワークを作り、わたしたちの「考える・感じる」を支えていると考えられています。
「脳の指紋」っていう言葉があるって本当?+
脳のつながり方のパターンは、人によって大きく違うことから、研究の世界で“脳の指紋”と例えられることがあります。指紋と同じように「一人ひとり違う個性がある」ことを表す、やさしいたとえとして使われています。
指紋は一生変わらないの?+
はい。紋様は表面の皮ではなく皮膚の深いところに刻まれているので、新しい皮膚も同じうねの並びの上に作られます。指をすりむいても、しばらくすると同じ模様が戻ってくるのはこのためです(注5)。ただし、傷が深くまで届いた場合は傷あととして残ります。
皮膚紋理学と手相は、同じもの?+
見ているものが違います。手相が読むのは手のひらの「しわ」(手を折り曲げたときにできる線)。皮膚紋理学が観察するのは、そのしわではなく皮膚のうねの並び方です。解剖学・人類学・法科学といった分野のなかで、観察と分類の方法が積み上げられてきた点も異なります(注1)。

このページで参考にした資料

事実として書いたことには、もとにした資料があります。気になったところは、ぜひ直接あたってみてください。

注1:Karthick K, Masthan KMK, Babu NA, Krupaa RJ, Anitha N.「Dermatoglyphics – A Review」Biomedical and Pharmacology Journal, Vol.8 October Spl Edition, 2015. biomedpharmajournal.org(用語の由来・カミンズによる命名・三叉・医学/人類学での応用)

注2:Barnes JG「Chapter 1: History」The Fingerprint Sourcebook, 米国司法省 国立司法研究所(NIJ), 2011. ojp.gov(PDF)(プルキンエ1823年の分類・ゴルトン1892年『Finger Prints』)

注3:Bhat GM, Mukhdoomi MA, Shah BA, Ittoo MS.「Dermatoglyphics: in health and disease – a review」International Journal of Research in Medical Sciences, 2(1):31–37, 2017. msjonline.org(妊娠10〜16週での形成・生涯不変・遺伝と子宮内環境の両方が関わること・染色体の状態との関連)

注4:Glover JD, Sudderick ZR, Shih BBJ, ほか「The developmental basis of fingerprint pattern formation and variation」Cell, 186(5):940–956.e20, 2023. cell.com(3か所から広がるうねと、型が決まる仕組み)

注5:Global Forensic and Justice Center, Florida International University「Fingerprint Analysis: Principles」 forensicsciencesimplified.org(型ごとの割合・紋様が元に戻る理由)

注6:『韓国知能システム学会論文誌(Journal of Korean Institute of Intelligent Systems)』Vol.35 No.4, 2025年8月, p.355. doi.org/10.5391/JKIIS.2025.35.4.355

注7:Azevedo FAC, Carvalho LRB, Grinberg LT, ほか「Equal numbers of neuronal and nonneuronal cells make the human brain an isometrically scaled-up primate brain」The Journal of Comparative Neurology, 513(5):532–541, 2009. doi.org/10.1002/cne.21974

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